人形か、人間か。
人とモノなのか、いや、2体で「1人」なのではないか。
人間と人形の姿が次第に重なって、感情までもシンクロしているよう。
日本独自の文化として花開いた芸能の、そのおもしろさとは何なのか。
「乙女文楽」は、まるで人間のような躍動感と細やかな感情を、1人が1体の人形を遣って表現します。
これは、3人で1体の人形を遣う通常の人形浄瑠璃文楽から、大正末期から明治初期にかけて編み出されたものです。
中原区にある現代人形劇の劇団「ひとみ座」は、この乙女文楽を伝承し、国内外での公演だけでなく、地元の方にも乙女文楽に親しんでもらいたいと、2008年より学生向けに講座を開始。
8月26日(日)の発表会では9名の受講生が、五穀豊穣を祈って舞う「二人三番叟」、そして、親子の情愛を描いた物語「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」を演じました。
初級クラス 二人三番叟より。始めて1~2年目の子が演じます。実は人形の「かしら(頭)」で性格の違いがあり、動きも微妙に異なります。写真で見るとおり、三番叟で扱う人形は、彼らと同じくらいの大きさなんです。
こちらは上級クラス 第1部より。離ればなれだった親子がお互いの素性を知らずに出会う場面。この後、母は自分の子だと分かるも、やむをえない事情から名乗らずに子を里に戻らせるシーンが続き、哀しい感情を爆発させます。
演目中の緊張感は、本当に学生が演じているの?!と驚くばかり。それ程この物語に引きずり込まれました。
上級クラスを指導した先生が「やってよかった。ハンカチを用意して見て下さい」と言うのも納得。動きで「情」を表現する難しい表現を見事に演じ、観客の涙をさらっていきました。
演目の合間には、団員さんたちによる文楽人形の仕組みについての解説。
人の耳、腰、足に専用の金具が付いていて、それが人形の動きに伝わるようになっています。しかし、人間の動きが必ずしも人形と同じ動作にはならないのが、学生たちには難しかったそうです。
それでも人形を持つのが楽しくてしょうがないのだと、イキイキとした演技や舞台後の言葉で知ることができました。
彼らの演じた素直な感想は、次回のインタビューで詳しく載せてまいります。
10月6日(土)には、文楽教室の修了生が井田神社の例大祭宵宮で公演予定。
乙女文楽が地元にも親しみをもって根付いていくことを期待したいですね♪
伝承から50周年。これからも伝統をつむいで―
今年はひとみ座としても、乙女文楽結成50周年の記念すべき年。
その記念公演が、9月23日(日)24日(月・祝)、東京芸術劇場シアターウエストで行われます。
特に、時代浄瑠璃の大作「奥州安達原 袖萩祭文の段」は必見。帝の弟宮が誘拐され、その責任で切腹を迫られた父と、勘当された娘との再会、そして娘の夫が誘拐の首謀者であったという複雑な人間関係のサスペンスが見どころです。
伝統から生まれた人形劇。「伝統文化って難しいのでは?」と思う人もいるかもしれません。
でもまずはその文化に触れてみてください。見た時、日本らしい風情や細やかな感覚の表現に、はっとするおもしろさがあります。
残り続けているということは、実は、私たちも共感できるものがたくさんあるはずなのです。
photo:熊谷香織氏
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